帝王切開の語源の話

anond.hatelabo.jp

ブコメでも書いたけど、増田の調査に物申したくなったのでこっちでまとめておく。

増田の調査結果は以下のとおり。

 


フランス語「opération césarienne」(切開する術式、的な意味でこう呼ぼう)

ラテン語「sectio caesarea」(切除して取り出す、的な意味。ここのcaesareaには帝王というニュアンスが無いことに注意)

(並行してcaesareaには「分家」という意味があり、これがカエサルさんが有名になったことで後世では「皇帝・帝王」という意味を持つことになるが、これはまた別の話。)

ドイツ語「Kaiserschnitt」(Caesareaってなんや?皇帝?まあ適当に寄せとけばええやろ。schnitt(切開)も付けとくか)

日本語「帝王切開」(Kaiserってついてるから帝王って意味やろな。直訳して帝王切開でええやろ)

 

上から順番に。

フランス語「opération césarienne」(切開する術式、的な意味でこう呼ぼう)

フランス語版wikipediaでは、

Le mot « césarienne » dérive du latin caesar, du verbe caedere (« couper », « inciser »), terme utilisé pour le nom d'une loi de la Rome antique, la Lex Caesarea, qui oblige à pratiquer une césarienne sur une femme enceinte morte ou sur le point de mourir. 

とある。césarienneは、日本語で「切る」、フランス語でcouperとかinciserを意味するラテン語のcaedereに由来していて、これは死亡寸前の妊婦に帝王切開を義務づけたLex Caesareaによる、という。

ほかに、FUTURAというサイトではもう少しぼかしており、

www.futura-sciences.com

L'origine du mot césarienne n'est pas bien définie : il pourrait venir du latin caedere (« couper »), ou bien faire référence à un texte romain qui a réglementé cette opération, d'abord appelée lex regia sous la royauté (753 à 509 avant J.-C.) puis lex caesarea avec l'avènement des Césars (27 avant J.-C.). Enfin, le mythe selon lequel Jules César serait né par voie abdominale peut être à l'origine du mot.

caedereに由来するかも知れないし、lex caesareaに由来するかも知れないという。いずれにせよ、フランス語のcésarienneは「切開」の意味を持たない。

 

次の

ラテン語「sectio caesarea」(切除して取り出す、的な意味。ここのcaesareaには帝王というニュアンスが無いことに注意)

は、ラテン語さんの人の調査の孫引きで十分かと思う。

 

次の

(並行してcaesareaには「分家」という意味があり、これがカエサルさんが有名になったことで後世では「皇帝・帝王」という意味を持つことになるが、これはまた別の話。)

は、caesareaに「分家」という意味はない。Caesareaは固有名詞としてカエサルが作った都市に名付けられている*1ほか、上記引用のとおり「カエサルの」等の意味になる。

なお、Caesarの語源について、日本語wikipediaでは博物誌とローマ皇帝群像記載のcaesoを引用している*2が、caesoの語が羅英辞典*3でも羅独辞典*4でも出てこないので、何これ?となっている。

 

次の

ドイツ語「Kaiserschnitt」(Caesareaってなんや?皇帝?まあ適当に寄せとけばええやろ。schnitt(切開)も付けとくか)

は、ドイツ語wikipedia

Der Kaiserschnitt, lateinisch Sectio caesarea[1] (von lateinisch sectio ‚Schnitt‘ und caesarea ‚kaiserlich‘, eigentlich von caedere, ‚hauen, heraushauen, ausschneiden, aufschneiden‘; caedere ventrem, ‚den Bauch aufschneiden‘, bedeutet „den Kaiserschnitt machen“[2]), 

と、ラテン語のSectio caesareaに由来するとあるのでまあよさそう*5

 

日本語「帝王切開」(Kaiserってついてるから帝王って意味やろな。直訳して帝王切開でええやろ)

ここも問題なさそう。

 

よって、訂正するとこうなる。

 

フランス語「opération césarienne」(ラテン語の「切る」caedereかLex Caesarea*6から名前をもらってきた「手術」opération)

ラテン語「sectio caesarea」(「切開」sectioだけどフランス語のカエサルCésarのせいで誤訳してんじゃない?)

ドイツ語「Kaiserschnitt」(Caesareaってなんや?皇帝?まあ適当に寄せとけばええやろ。schnitt(切開)も付けとくか)

日本語「帝王切開」(Kaiserってついてるから帝王って意味やろな。直訳して帝王切開でええやろ)

 

 

クラシック作曲家の作風パターン

 

anond.hatelabo.jp

この増田とブコメがおもしろかった。自分のブコメはこれ。

作曲家のワンパターンっぽい作風、けっこう好き。

必殺!ブルックナー開始!ブルックナーニゾンブルックナー進行!ブルックナー終止!

2022/09/16 10:02

b.hatena.ne.jp

クラシックの作曲家もそれぞれのパターンを確立しており、曲を聞くと誰の曲か割と判別できると思ったので、判別方法を言語化しておく*1。本当に上手な人はモーツァルトっぽいアレンジとかできるから、そこまで辿り着ければいいなという願望がある。

 

バッハ

・オルガンで真ん中ぐらいの音をぐしゃぐしゃ鳴らす*2

・単純な主題が重なってぐしゃぐしゃになっていく*3

クラリネットはない

ヘンデル

・お城でパーティーやってる感じがする

モーツァルト

・アルベルティバス*4+16分音符の全音階で1オクターブ以上駆け上がる

・メロディーは長調で音域は高め

・いろいろなメロディーを次々繰り出す

ベートーヴェン

・同じ音型を死ぬほど繰り返す

・オーケストラ全員で和音(特に属和音)をフォルテで1発から6発鳴らす

スケルツォ楽章でホルンにちょこまかしたことをやらせる

コントラバスに速くて細かい音を弾かせる

ハイドン

モーツァルトベートーヴェンの中間

シューベルト

・メロディーがきれいで明るいベートーヴェン

・ときどき闇が深い

・長い*5

ロッシーニ

・メロディーがきれいですごく明るいベートーヴェン

ロッシーニクレッシェンド*6

メンデルスゾーン

・フレーズが整っているロッシーニ

ベルリオーズ

・魔界に行きがちなベートーヴェン

ショパン

・メロディーがきれいで和音が複雑なシューベルト

・音と音の間の余白が多い

マズルカ

リスト

・跳躍が激しくて音が細かくてでかい

管弦楽曲ヴァーグナーと区別が難しい

シューマン

・頭がおかしいメンデルスゾーン

・1小節単位でキャラが激変する

ヴァーグナー

・音がでかい

・トランペットとトロンボーンを使って祝祭的雰囲気を出す

・弦楽器に高い音で変なアルペジオをやらせる

ブラームス

・ずっと短調

・たまに明るくなったと思ったらすぐしぼむ

ヴィオラあたりにピアノの左手みたいな適当な音型のアルペジオをやらせる

・弦楽器と木管楽器が交互に同じことをする

ブルックナー

ブルックナー開始

ブルックナーニゾン

ブルックナー進行

ブルックナーリズム

ブルックナー終止

・全部オルガンに聞こえる

ヨハン・シュトラウス2世

・ワルツ

ポルカ

マーラー

管弦楽曲にむやみに歌が入る

・トランペットとトロンボーンが吠えるがヴァーグナーより悲壮感がある

・譜面ではリズムが複雑そうに見えるが4拍数えてればだいたい何とかなる

・ハンマー

カウベル

リヒャルト・シュトラウス

・冒頭の主題が魅力過ぎてその後が全部おまけになる

・ホルンが木管みたいなことをやらされる

・白黒映画のBGMに聞こえてくる

・ウィンドマシーン

チャイコフスキー

短調のメロディーで導音が多い

・一番盛り上がるところで1小節に1回から4回シンバルが鳴る

・ワルツが激しく盛り上がって終わる

ムソルグスキー

・低音域でもぞもぞ動く

・何の和音かよく分からない

リムスキー=コルサコフ

・6度以上飛ぶアルペジオを使って波を表現する

・タンバリンと銅鑼

ドヴォルザーク

・ヨナ抜き音階

・中音域の楽器がスローテンポで民謡のようなメロディーを演奏する

・フリアント*7

エルガー

ヴィオラ以上の弦楽器がスローテンポで低めの音域を使ってメロディーを演奏する

・その際に金管が長めの音符を連打して伴奏する

ドビュッシー

・メロディーがないがなんかきれい

・和声進行もはっきりしないがなんかきれい

全音音階

ラヴェル

・和声進行がないようで実はある

長音階のファが半音上がりがち

シベリウス

・中音域以下の弦楽器がひたすら16分音符で半音音程を行ったり来たりする

・ヴァイオリンが突如高音で長めの音を鳴らす

・暴力的な音を出したり悟ったような音を出すトロンボーン

ラフマニノフ

・順次進行*8ばっかり使ってるのにメロディーがキャッチー

・ピアノがオーケストラの音を完全に食う

スクリャービン

・なんかねっとりしてる

ショスタコーヴィチ

・変なところでスネアドラムが出てくる

・フルートが絶叫する

・壮大に盛り上がったところでかわいい音や極端に単純なリズムが出てきて馬鹿にされたような気分になる

プーランク

全音階でファとレとソが半音上がりがち

・上の方にばっかり転調する

・いきなり落ち着いてモーツァルトみたいになる

メシアン

オンド・マルトノ

ガーシュウィン

・ビッグバンドに弦楽器が混ざってる

クセナキス

・音が潰れている*9

ライヒ

・同じ音型を延々繰り返す*10

すぎやまこういち

・ ソ|ミ・・ソ|レ・・ソ|ド の音型

・ ラドシソ の音型

*1:完全に個人の主観です

*2:トッカータ

*3:フーガ

*4:相対音階でドソミソドソミソ

*5:単調な繰り返しが多くて長さを感じさせるという意味

*6:徐々に音量を上げながら同じフレーズを繰り返す

*7:2+2+2+3+3のリズム

*8:隣の音に行く進行

*9:トーン・クラスタ

*10:ミニマルミュージック

求人段階における統一教会信者の排除は簡単ではない(追記あり)

anond.hatelabo.jp

 

この増田は鋭くて、自分もあまり明確に意識できていなかった問題点を教えてくれた。ありがたい。

で、これにトラバやブコメがたくさんついているが、誤解や古い知識に基づいた意見が見られるので、これを放置しておくと多分よくないなと思って簡単に2点指摘しておく。

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最も銀河英雄伝説っぽい作曲家は皆さん予想の通りあの人です

 

このtweetを見かけたときに思い立って、アニメ銀河英雄伝説(旧版)のBGMに使われている曲を調べようと思ったのがもう6年前。集計のためにExcelの勉強をするのがめんどくさくなって放り出していたが、ふと思い出して続きをしたので、今も需要があるかは知らんが結果を公開しておくことにした*1。一番曲を使われている作曲家が一番銀英伝っぽい作曲家さんです。

*1:集計用のファイルははてなブログではアップロードできなかったので公開しない

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松井一郎さんのための予算委員会議事録メモ

www.daily.co.jp

松井氏は、他野党の政府批判について聞かれると「あのー、もう無責任な立民とか、国民とか、共産とか、そういう野党の皆さんは、そう言う資格ないと思います」と断じた。「今年の1月2月、コロナ危機が迫る中で、彼らは桜と森友、そこの話ばっかりやってたわけですから」と、国会審議に危機感が感じられないと批判された件を挙げた。

という発言について、そんなわけないだろと思って議事録をあさったら、案の定そんなわけなかったので、抜粋して紹介する。

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人事院は絶対内閣に屈したりしない!→内閣には勝てなかったよ…

こんな即堕ち2コマみたいな品のないタイトルは付けたくなかったが、現実がそうなってるんだから仕方ない(開き直り)

 

要約:人事院が独立行政委員会として内閣に対する強い独立性を有することについて、憲法上どう説明するか長年議論されてきたけど、安倍さんのおかげで独立性がなくなったので、その必要はなくなったぜ!

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湿気がもたらす楽器への影響

外国と日本では音の聞こえ方が違うというtweetが盛り上がった。

 

[B! 音楽] 榎宮祐🎮📖🍿 on Twitter: "何度もブラジルと日本を往復してるけど、やっぱ気のせいじゃないって。日本、音がこもるよ。飛行機で耳をやられるからかなーって思ってたけど、明らかに高音も低音も伸びがない。 っていう長年の違和感、プロのミュージシャンに思い切って相談したら「それ録音の長年の課題です」言われた。マジか。"

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