湿気がもたらす楽器への影響

外国と日本では音の聞こえ方が違うというtweetが盛り上がった。

 

[B! 音楽] 榎宮祐🎮📖🍿 on Twitter: "何度もブラジルと日本を往復してるけど、やっぱ気のせいじゃないって。日本、音がこもるよ。飛行機で耳をやられるからかなーって思ってたけど、明らかに高音も低音も伸びがない。 っていう長年の違和感、プロのミュージシャンに思い切って相談したら「それ録音の長年の課題です」言われた。マジか。"

ミュージシャンが録音について応答したことで、ピュアオーディオ神話とも関連して真贋論争が盛んになった。

この中で、湿気のせいで木製楽器の音が変わるのが楽器を触っている人の間では常識だとブコメした。コメントしておいて何だが、どうしてそうなるのか気になったので裏付けを探してみたところ、意外とあっさり見つかった。「楽器と木材」というそのままドンピシャの論文がある。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/56/8/56_8_614/_pdf

 

曰く、

「普段われわれが生活している環境下では,木材の細胞壁には通常10%前後の水分が含まれている。しかし,ヨーロッパの乾燥した空気の中ではそれは8%前後にまで減少し,また,梅雨時のような湿った空気の下では15%前後にまで増加する。このような水分量の変化に伴って,木材の音響特性は大きく変化する。たとえば,20°Cで,相対湿度が30%R.H.から65%RH。まで変化すると,スプルース材のヤング率は繊維方向および放射方向において10%程度減少し,内部摩擦は繊維方向および放射方向で,それぞれ20%および40%程度も増大する。

梅雨時と冬場の乾いた室内に置いたときでは,木製楽器の音色が異なって聞こえることがあるが,それにはこのような木材の音響特性の変化に加えて,吸・放湿に伴う木材の膨潤あるいは収縮による楽器の構造変化も関係している。コンサートホールでは,場合によっては寒くてもクーラーによる除湿を行わないと演奏に支障が生じるとの話を聞いたことがあるが,これも木製楽器やホール内装に用いられる木材の吸湿性と関係しているように思われる。このような吸湿や乾燥による音響特性変化の低減を一つの目的として塗装がなされる。塗装は楽器の振動を抑制し,音を硬くするが,塗装によってその楽器本来の音色が現れるのも事実である。」(2.3 湿度の影響)

 

上記引用を要約すると、以下のようになる。

  • 空気の湿度が増減すると、木材の細胞壁の水分も増減して音響特性が変わるよ
  • 湿度が上がると、ヤング率が下がって高音が出にくくなるよ
  • 湿度が上がると、内部摩擦が上がって音量が落ちるよ
  • 湿度が上がると、楽器の形が変わって音が変わるよ

ここにいう「ヤング率」は固体に力をかけたときの戻りやすさという意味での硬さを表し*1、音響的にはヤング率が高い(=硬い)と発音帯域が広がる*2

「内部摩擦」は、固体に力をかけたときにその力が固体内部で熱エネルギーに変換される現象を表し*3、音響的には内部摩擦が高いと音になりにくいことになる。

 

ということで、湿度が上がると木製楽器の音は出にくくなるのだった。楽器の変形は、必ずしも音が出にくくなる現象に直結するわけではないが、演奏者からすると、楽器の特性が変わるため、音を鳴らしやすくするポイントが変わることとなり、普通は音を出しにくくなる結果に結びつく。

 

また、論文にはないが、リードを発音体とする楽器の場合は、リードに水を含ませて一定の湿り気を確保するが、外気の湿度が上がると、過剰な湿り気を帯びてしまい、発音に影響が出る。

 

ほかのコラムでは、低周波に比べてエネルギーの低い高周波は空気中の水蒸気に妨げられて遠い距離まで届かないので、湿度が高いとは音がこもる的な記述もあるが*4、個人的にはあまり賛同しない。梅雨時のオーケストラでは金管楽器が相対的に突出しがちという実感があるからだ。

 

気圧とか重力とか発電所とかはどうなんすかね。関係ない気もするけど。

*1:力学的に厳密な表現ではない

*2:参照:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/46/11/46_11_850/_pdf

2.スピーカーの音響特性と材料物性。音楽的にいうと「倍音が増える」ということになると思われる

*3:力学的に厳密な表現ではない

*4:https://www.加湿.net/news/20181009.php