菊池誠先生の勘違い

はてなのパブリックエネミーとして有名なきくまここと菊池誠先生が、籠池証人喚問を受けて、以下のような発言をしている。

 

 

 

 

  

 

 

要するに、

・証人喚問は違法性のある行為をした者に限定して行うべき

・100万円を寄付した行為は違法性のある行為ではないので、それを安倍昭恵氏がしたとしても証人喚問すべきではない

・首相の配偶者が公人か私人かの区別は今後必要だが、行為そのものに違法性はないから、そのために証人喚問する必要はない

・「忖度させた罪」を作ることは不可能

 

ということのようだ。

 

これらの発言について、はてなではまだ炎上していないようだが、今後、何が何でも安倍ちゃん守り隊とか揶揄する声が飛んでもおかしくない。その点はほんとにそうかもしらんのだが、個人的には、それなりの見識だとは思う。証人喚問が裁判所の証人尋問と同一という前提があるなら。

 からしても、菊池先生は多分そう思っていることだろう。

 

確かに、国会の証人喚問は、偽証罪の制裁が科せられることでは、裁判における証人尋問と同一だ。証人自身の犯罪の疑惑がある場合に喚問が実施されることも多いから、刑事事件の被告人質問と類似の性格を示すこともある。

 

ところが、法律上の立て付けはそうなっていない。国会での証人喚問は国政調査権の行使の一形態で*1、あくまでも、国会の権能たる立法権の行使のために実施されるものだ。つまり、法律を制定する際に立法事実*2の有無を確認する必要があるとき、行使される。

過去には、証人喚問が政敵の追い落としや証人の有罪判決獲得を主な目的として行使されることもあったろう。今回もそのような目的であれば、国政調査権の濫用であり許されるものではない。しかし、特に民進党永田メール事件のトラウマがあり、野党は籠池理事長の参考人招致を求めていたに過ぎない。今回の証人喚問を濫用と理解するのは、過去の記憶に引きずられた誤解と言わざるを得ない。

 

そうすると、違法性のある行為を行っていない昭恵氏の証人喚問をすべきでないという主張には根拠がなくなる。一方、今後立法する上で、首相の配偶者が行ってはならない行為はどこまでか、「忖度」に違法性を認めるべき行為類型はどのようなものかということについては、是非とも発生した事実関係及び当事者の主張を採取しておく必要がある。具体的な事実をたたき台にせずに条文を検討しても、空論に終わり実効性を確保できないからだ。

そういう理由で、森友事件に全く違法性がないとしても、今後合法的な汚職や便宜供与が繰り返されないために法律が制定されるべきだし、その実効性を確保するために証人喚問を含む国政調査権は行使されるべきということになる。

 

善解すれば、菊池先生の発言は、過去に政局を実質的な理由として国会で実効性が薄く醜い攻防が繰り広げられたことへの嫌悪感から、今回もそれと同じと思ってしまったのではないかと思う。マスコミの論調もそれに近いものが相当あるし、安倍政権の打倒につなげたい野党議員の発言もあった気もする。けれども、だからといって証人喚問自体を全否定するのは、制度趣旨を誤解していると言わざるを得ないので、正しく理解してほしいなあ*3

*1:憲法62条、議院証言法1条

*2:立法の必要性・相当性の根拠となるべき一般的事実

*3:菊池先生と同じような理解を示す人が特にリフレ周りの界隈に多く見られるので、頭を抱えている