グーグルストリートビューで巡るローマ三部作聖地巡礼その2 ローマの松

I pini di Roma ローマの松(1924)

 

 

ローマの遺跡にはしばしば松が生えている。不死の象徴とされる松は、古代からローマ市民に愛されてきた。ヴァティカン美術館の中庭に置かれているピーニャ(松かさ)はかつて噴水としてパンテオンの横に置かれていたし、現在のヴェネツィア広場にも松かさの噴水が設置されている*1*2

松は遺跡だけでなく至る所にある。イタリアカサマツは日本の松とは違い、ひょろ長い幹のてっぺんにこんもりした葉が生えている。
交響詩「ローマの松」は、ローマ名物の松を周囲の情景とともに曲に仕立てたものだが、同時に、松を通じて思い起こされる歴史的な風景も織り込んでいる。

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I. I pini di Villa Borghese ボルゲーゼ荘の松

Giuocano i bimbi nella pineta di Villa Borghese: ballano a giro tondo, fingono marce soldatesche e battaglie, s'inebriano di strilli come rondini a sera, e sciamano via.
「ボルゲーゼ公園の松林の間で子供たちが遊んでいる。丸い輪になって踊ったり、兵隊ごっこをして行進したり戦ったりしている。夕暮れの燕のように、群れを成して自分たちの叫び声に興奮している。」

 

Pini di Villa Borghese

「ボルゲーゼ荘」は、ローマの噴水でも描かれたボルゲーゼ公園のこと。イタリア語の名称は現在でもVilla Borgheseなので、意訳せずに曲のタイトルを訳するなら「ボルゲーゼ公園の松」となるはず。
もともとはボルゲーゼ枢機卿の住居に付随する庭園として建設された。長らく非公式に公開されていたのが、20世紀になってローマ市が正式に買い上げ市民公園とした。ローマ旧市街の範囲を画するアウレリアヌス城壁のすぐ外にある。

 

II. I Pini presso una catacomba カタコンベ付近の松

Improvvisamente la scena si tramuta ed ecco l’ombra dei pini che coronano l’ingresso di una catacomba: sale dal profondo una salmodia accorata, si diffonde solenne come un inno e dilegua misteriosa.
「風景は不意に変わって、松の木の影がカタコンベ*3の入口を覆っている。地下の奥底から悲しみを湛えた歌声が立ち上ってくる。それは賛美歌のように荘厳に広がった後、神秘的に消えていく。」

 

Pini presso una catacomba

サン・セバスティアーノのカタコンベ

 

原題ではカタコンベではなくcatacombaが使用されている。カタコンベは日本での通称で、イタリア語の単数形はカタコンバcatacomba、複数形がカタコンベcatacombeとなる。
カタコンベは、現在も、主にアウレリアヌス城壁外に複数残されている*4。おそらく一番有名なのは、アッピア街道に面したサン・セバスティアーノのカタコンベで、この横に松がある。現在はカタコンベの上にサン・セバスティアーノ聖堂が建設されている。

聖堂は市街地から外れたところに建っており、何か出そうな雰囲気を醸し出している。

 
III. I pini del Gianicolo ジャニコロの松

Trascorre nell'aria un fremito: nel plenilunio sereno si profilano i pini del Gianicolo. Un usignolo canta.
「ざわめきが通り過ぎていく。ジャニコロの丘の松は満月の明るい光に照らされ、くっきりと姿を浮かび上がらせて立ち、ナイチンゲール(夜鶯)が啼く。」

 

Pini del Gianicolo

ヴィットリオ・エマヌエーレ2世記念堂を正面に見たジャニコロの松並木

 

ジャニコロの丘は、旧市街から見てテヴェレ川を挟んだ川向こうの丘。ヴァティカンとトラステヴェレの中間にある。ここから東を向くと旧市街なので、夜の早いうちには、旧市街の向こうに満月を見ることができる。
「黄昏のメディチ荘の噴水」が夕暮れ時に旧市街を西に向いているのとは、旧市街を挟んで対称になっている。
トラステヴェレには飲食店が連なる。適当に一杯引っかけてから徒歩で丘に上るとよい。

 
IV I pini della Via Appia アッピア街道の松

Alba nebbiosa sulla via Appia. La campagna tragica è vigilata da pini solitari. Indistinto, incessante, il ritmo di un passo innumerevole. Alla fantasia del poeta appare una visione di antiche glorie: squillano le buccine ed un esercito consolare irrompe, nel fulgore del nuovo sole, verso la via Sacra, per ascendere al trionfo del Campidoglio.
アッピア街道の霧深い夜明け。孤高の松は不思議な光景を見守る。おぼろげで絶え間ない、無数の足音のリズム。詩人は過ぎ去りし栄光の幻影を見る。ブッキーナ*5が鳴り響き、暁光に包まれて、執政官の軍隊はヴィア・サクラへ勢いよく進み、凱旋してカンピドリオの丘に登る。」

 

Pini della via Appia

アッピア街道

 

Via Sacra
ヴィア・サクラ

 

Campidorio
カンピドリオの丘からフォーリ・インペリアーリ通りを見下ろした位置

 

イタリアの南方や地中海を隔てた土地で勝利したローマ軍は、アッピア街道を凱旋行進した。アッピア街道は、ローマの南東を出て長靴の底にあるターラントブリンディジに至る。

行進は、カペーナ門*6をくぐって市内に入った後、チルコ・マッシモとコロッセオの横を通り、フォロ・ロマーノのヴィア・サクラ(聖なる街道)を経てカンピドリオの丘に至り、神々に戦勝の報告と感謝を捧げることとされていた。
アッピア街道沿いには松が多く植えられ、すり減った石畳とともに当時を忍ばせるが、現在も自動車は通行可能で、バス路線まである。
アッピア街道に並行して、自動車用の幹線道路として、新アッピア街道Via Appia Nuovaが供用されている。