人事院は絶対内閣に屈したりしない!→内閣には勝てなかったよ…

こんな即堕ち2コマみたいな品のないタイトルは付けたくなかったが、現実がそうなってるんだから仕方ない(開き直り)

 

要約:人事院が独立行政委員会として内閣に対する強い独立性を有することについて、憲法上どう説明するか長年議論されてきたけど、安倍さんのおかげで独立性がなくなったので、その必要はなくなったぜ!

 

 

 

 東京高検検事長の定年延長に係る国家公務員法の解釈について、人事院の局長が答弁を修正したことが問題になっている*1

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022001202&g=pol
人事院の松尾恵美子給与局長は12日、検察官は国家公務員法の定年延長規定の適用外とした1981年の政府見解について「現在まで同じ解釈が続いている」と説明した。
 ところが、安倍晋三首相が翌13日に「検察官の勤務延長は、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と突然表明。するとこれに合わせるかのように、森雅子法相は17日の答弁で解釈変更は今年1月だったとし、松尾氏も19日に自身の答弁を撤回、修正した。」

 

 人事院の答弁修正の経過をみると、2月12日の段階では、人事院は、「制定当時はそういう解釈だ。現在までも特に議論はなかったので同じ解釈を続けている」と、検察官の定年延長を認めないとの解釈を表明していたのが*2、13日の首相の発言*3後である17日に法相、続いて19日に人事院が答弁の平仄を首相と合わせたことになる。

 

 ところで、人事院は、会計検査院中央労働委員会公害等調整委員会などとともに、行政権の一部でありながら、行政権の長たる内閣から独立しているものとされ、講学上、独立行政委員会(ないし行政委員会、または独立行政機関*4)と呼ばれている。

 独立行政委員会は、日本国憲法に明記されているわけではなく、必ずしも憲法と適合しない*5。すなわち、日本の統治機構の権力は国会、内閣、裁判所に分立するとされているため、行政権なのに内閣の下に属さない独立行政委員会の存在が許されるのか、許されるとすればそれはなぜなのか、長年議論となっている。例えば、曽我部真裕教授の論文においても「論点が多岐に渡り、議論が錯綜している」とされている*6

 

 今回の人事院の答弁は、2月12日においては、法務省と一致しない解釈を採用しているとしており、その時点では、独立行政委員会の名にふさわしく、内閣から独立していた。もちろん、内閣と人事院の法解釈が一致しないこと自体は運用に際して問題が生じるため、「人事院法務省の統一見解を政府として出してほしい」との要望が出されている*7人事院法務省と協議して解釈を修正し、統一見解を出すなりすれば済んだことだ。

 

 それなのに、首相が人事院法務省をすっ飛ばして解釈について口走ったことから、おかしくなった。法相と人事院局長が相次いで首相の発言に追従することとなったのは、あるいは、件の検事長が2月7日定年であったことから、それより後に人事院が定年延長を否定するような発言をしたことで、法務省の法解釈の正当性に影響することをおそれたからなのかも知れないが、何にせよ、人事院は内閣の下にはないのだから、内閣の不手際の面倒を見る立場にはない。にもかかわらず、人事院は答弁を修正した。

 この人事院の豹変に、内閣が何ら関与していないとはとても考えられない。繰り返しになるが、人事院としては、統一見解を出せば済んだ話で、答弁を修正して集中砲火にさらされる必要などなかったのだから。首相ないし内閣をかばっての答弁修正と見るのが妥当だろう。人事院に何の得もない答弁修正は、内閣の指示を受けたものとしか思われず、したがって、人事院は内閣の監督の下に服しているということになる。

 

 そうすると、少なくとも人事院については、独立行政委員会でなく、内閣の事実上の外局のようなものと理解すべきことになろう。森友関係では、財務省国交省会計検査院に介入し、会計検査院が一部屈したようなこともあっただけに*8、日本の独立行政委員会の位置づけ自体、一応の独立性は用意されているがいざとなれば内閣の指揮命令に服するべきものとして、考え直さなければならないのかも知れない。その場合、独立行政委員会の合憲性という憲法学上の難問は、解消したことになる*9

*1:この解釈変更は決済を経ておらず、法務省人事院の協議文書に日付記載がなかったことから、1月22日に解釈変更を行っていたという局長答弁の真偽や、解釈変更そのものの存在も問題になっているが、本題ではない。

*2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55525690S0A210C2PP8000/

*3:衆院本会議における発言。

*4:会計検査院人事院が「委員会」ではないため。

*5:GHQアメリカの制度をそのまま持ち込んだという沿革の影響が大きい。

*6:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/180576/1/shojihomu_201308.pdf

*7:前掲注2。

*8:http://www.tatsumi-kotaro-jump.com/parliament_question/%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E9%99%A2%E5%A0%B1%E5%91%8A%E3%81%AE%E3%80%8C%E5%8E%9F%E6%A1%88%E3%80%8D%E4%BA%8B%E5%89%8D%E3%81%AB%E6%84%8F%E8%A6%8B%E3%81%8B%E3%80%80%E5%86%85%E9%83%A8%E6%96%87%E6%9B%B8%E3%82%82/

*9:ただし、会計検査院の役割を名指しで定める憲法90条との整合性の問題や、国家公務員の労働基本権を制限していることが人事院の存在によって正当化できなくなる問題が新たに発生する。