読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

グーグルストリートビューで巡るローマ三部作聖地巡礼その1 ローマの噴水

音楽

はじめに

クラシックの曲には、音で風景や人物といった絵画を描くようなジャンルがあり、交響詩組曲といった名称で呼ばれている。その中に、レスピーギの作曲した交響詩、『ローマの噴水』『ローマの松』『ローマの祭』の、いわゆるローマ三部作がある。

これらの曲は20世紀の戦間期に作曲され、ローマ市の様々な名所や情景を音で描いている。レスピーギの師匠はロシアのリムスキー=コルサコフで、この人は卓越した管弦楽法で知られており、グラズノフストラヴィンスキーの師匠でもある。
ローマ三部作は、ローマを描いた曲で、何も見なくともそれなりに、解説を読めばさらに情景が浮かんでくる分かりやすい曲だが、それぞれの曲が具体的にどこの何を表しているか、Google先生の力を借りてできるだけ詳しく見ていこうと思って調べたので、その結果を記しておく。


Fontane di Roma ローマの噴水 (1916)

 

 

古代ローマでは、皇帝の務めたる市民への貢献として、多くの浴場が建設されていた。風呂のための水は、水道で運ばれた。水道の水は市民の上水道ともなり、噴水の水ともなった。西ローマ帝国が滅んだ後も、水道施設は長く使われた*1
現在も、ローマ市街には噴水が大量にある*2。ペットボトルの水は高いので、街角の噴水にわいている無料の水を飲むとよいというのは、みな知っている。
ということで、ローマ名物の噴水を、周囲の情景とともに曲にしたのが、交響詩「ローマの噴水」となる。以下に示す斜体は作曲者自身の解説、カギカッコはその日本語訳*3

 

 

In questo poema sinfonico l'autore ha inteso di esprimere sensazioni e visioni suggeritegli da quattro fontane di Roma, considerate nell'ora in cui il loro carattere è più in armonia col paesaggio circostante o in cui la loro bellezza appare meglio suggestiva a chi le contempli.
「この交響詩では、作曲者は、4つのローマの噴水の特徴が周りの風景とより調和していると思われる時刻、あるいは眺める人にとってその美しさがよりよく現れるであろう時刻における、噴水が暗示する印象や幻想を表現しようとした。」

 www.youtube.com

曲は連続した4つの部分から構成される。

 
I. La fontana di Valle Giulia all'alba 夜明けのジュリア谷の噴水

La prima parte del poema, ispirata alla fontana di Valle Giulia, evoca un paesaggio pastorale: mandrie di pecore passano e dileguano nella bruma fresca e umida di un'alba romana.
「この交響詩の最初の部分はジュリア谷*4の噴水から霊感を受けたもので、ローマの夜明けの、涼やかで湿った朝靄の中を羊の群れが通り過ぎ消えゆく田園風景を表している。」

 La Fontana di Valle Giulia

ジュリア谷の国立近現代博物館と噴水(クリックでストリートビューへ) 

 

Valle Giuliaジュリア谷は、ローマ旧市街からやや外れたボルゲーゼ公園の北端にある。見た目はただの窪地。現在はトラム(路面電車)が通っており、Valle Giulia停留場もある。必ずしも特定できないものの、該当しそうな噴水は、国立近現代美術館前にある。
国立近現代美術館*5は19世紀末の創立なので、作曲当時はもう存在している。現在の建物は、1911年のトリノ万博の際に開催された展覧会に合わせて、バッツァーニの手により改修されたもので*6*7、羊の群れがいそうな牧草地とはややかけ離れた豪華な外観になっている。

噴水は、美術館の改修に合わせてバッツァーニが設置したもののようで*8、作曲者の説明する情景が現実に存在したことが一瞬でもあったのか、かなり疑問がある。

ジュリア谷の由来はおそらくヴィラ・ジュリアで、日本語に訳するとジュリア荘。これは、マニエリスム時代の教皇ユリウス3世の別荘で、ジュリア谷の北西端にあり、現在はヴィラ・ジュリア国立博物館としてエトルリア時代の美術品を展示している。

 

II. La fontana del Tritone alla mattina 朝のトリトーネの噴水

Un improvviso squillare fortissimo dei corni sui trilli di tut0ta l'orchestra inizia la seconda parte. È come un richiamo gioioso cui accorrono frotte di naiadi e tritoni che s'inseguono e fra gli spruzzi d'acqua intessono una danza sfrenata.
「突然のホルンの咆哮と全オーケストラのトリルで第2の部分が始まる。それはまるで、水しぶきの間で奔放なダンスを繰り広げたり追い駆けっこをしているナイアデス*9とトリトーネ*10の群れを迎える、歓びに溢れた呼び声のよう。」

La Fontana del Tritone

 

トリトーネの噴水は、バルベリーニ広場の中心にある、ベルニーニ作の有名な噴水。トリトーネの持つホラ貝から水が勢いよく吹き出ている。近くには同じくベルニーニ作の蜂の噴水もある。
同じくベルニーニ作の噴水では、ナヴォーナ広場の「四大河の噴水」や、スペイン広場の「船の噴水」の方が有名だが、レスピーギがトリトーネの噴水を採用したのは、吹き出た水が朝の光に照らされる様子を描写したかったからかもしれない。
バルベリーニ広場の名前の由来は、広場に面したバルベリーニ宮で、こちらも噴水と同じくベルニーニが完成させた。

ちなみに、真実の口のあるサンタマリア・イン・コスメディン教会そばには、その名も「トリトーネの噴水」Fontana dei Tritoniがあり*11、極めて紛らわしい*12

 
III. La fontana di Trevi al pomeriggio 昼のトレヴィの噴水

Un tema solenne appare intanto sul mareggiare dell'orchestra. È la fontana di Trevi al meriggio. Il tema solenne passando dai legni agli ottoni assume un aspetto trionfale. Echeggiano fanfare: passa sulla distesa radiosa delle acque il carro di Nettuno tirato da cavalli marini e seguito da un corteo di sirene e tritoni. E il corteo si allontana mentre squilli velati echeggiano a distanza.
「オーケストラのうねりに伴って厳粛な主題が現れる。これが真昼のトレヴィの噴水。厳粛な主題は木管から金管へ移り、凱旋の様相を帯びる。ファンファーレが鳴り響き、海の馬*13に曳かれたネプトゥーヌス*14の馬車は、列をなしているセイレーン*15とトリトーネ達を従えて、水面のきらめきの上を歩んで行く。その後、行列は遠くで微かに響くトランペットの音の中に消えていく。」

La Fontana di Trevi

 

超有名噴水のトレヴィの泉さん。みんな知ってるね。
アウグストゥス帝が作ったヴィルゴ水道の終端施設。現在の姿になったのは18世紀で、サルヴィの設計による。中央にネプトゥーヌス、左に豊穣の女神ケレイア、右に健康の女神サルースが配置される。

とにかく水を大量に使ってばっさばっさと流す噴水で、しかも周囲がギリシャ式劇場のように階段状になっているので、バロックの彫刻も相まって、豪奢という形容がよく合う。

 
IV. La fontana di Villa Medici al tramonto 黄昏のメディチ荘の噴水

La quarta parte si annunzia con un tema triste che si leva su di un sommesso chiocciolio. È l'ora nostalgica del tramonto. L'aria è piena di rintocchi di campane, di bisbigli di uccelli, di brusii di foglie. Poi tutto si quieta dolcemente nel silenzio della notte.
「第4の部分は、声を押し殺したような小鳥の囀りの上を漂う悲しい主題から始まる。夕暮れの、郷愁に満ちたひと時。繰り返しゆったりと鳴る鐘の音、小鳥の囀り、木々のざわめきがあたりに立ち込め、すべては夜の静けさの中に穏やかに消えていく。」

La Fontana di Villa Medici

 

メディチ荘はスペイン広場の階段を上ったトリニタ・ディ・モンティ教会のそば、ボルゲーゼ公園に隣接して建っており、メディチ荘から西を向くと噴水が設置されている。夕暮れ時に噴水を見ると、夕日に照らされる市街を一望できる。ストリートビューでは木に隠されて分かりにくいが、正面には、ローマ旧市街で最も高いサン・ピエトロ大聖堂のクーポラがそびえ立つ。
メディチ荘を建てたのは、第3代トスカーナ大公のフェルディナンド・ディ・メディチ(1世)。ジュリア荘と同じ頃に建設されている。
西向きの噴水なら、このほかにも、ポポロ広場からピンチョの丘に登るところに、「ローマの神々とピンチョの麓の噴水」という豪華な噴水があるが*16メディチ荘の噴水は高台にある分見晴らしがいいので、レスピーギはこちらを選んだのでは。ピンチョの丘の上に噴水があったら、そちらが採用されていたかもしれない。

 

*1:厳密には、14世紀に壊れ、15世紀に復活したようだ

*2:約2000基あるとされる。Wikipedia英語版では、要出典情報ながら世界一噴水の多い街とされている https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_fountains_in_Rome

*3:がんばって自力で訳した

*4:ライナーノートによっては、ジュリア谷ではなくジュリア荘と記載するものもあるが、谷Valleと邸宅Villaは明確に異なる

*5:コレクションには、デ・キリコモディリアーニなど国内の作家だけでなく、デュシャンセザンヌカンディンスキークリムトゴッホなどの国外有名作家の作品などがあるが、ルネサンスバロックの本場ローマではどうも地味な存在。

*6:https://it.wikipedia.org/wiki/Galleria_nazionale_d%27arte_moderna_e_contemporanea

*7:https://it.wikipedia.org/wiki/Esposizione_Nazionale

*8:http://www.leviedelgiubileo.it/?p=4311

*9:泉や川の妖精。単数の場合ギリシャ語ではナイアス

*10:半人半魚。元は海神ポセイドンの息子の名だったのが、後に海神の護衛一般を指す一般名詞となった。tritoniは複数形なのでこれは一般名詞

*11:https://it.wikipedia.org/wiki/Fontana_dei_Tritoni

*12:単数のTritoneがバルベリーニ、複数のTritoniがサンタ・マリア・イン・コスメディンなので、区別は明確につく

*13:cavallucchio marinoでタツノオトシゴだけど見栄え的に違うはず

*14:ギリシャ名ポセイドン

*15:半人半鳥の海の妖精

*16:https://www.google.co.jp/maps/@41.9110024,12.4771911,3a,75y,33.72h,84.08t/data=!3m8!1e1!3m6!1s-wJPKfBXYtgI%2FUkVy55LHgHI%2FAAAAAAAAJUs%2FPMYGw-g-IX8EyAzOy2-nqzkecquwrIMdA!2e4!3e11!6s%2F%2Flh4.googleusercontent.com%2F-wJPKfBXYtgI%2FUkVy55LHgHI%2FAAAAAAAAJUs%2FPMYGw-g-IX8EyAzOy2-nqzkecquwrIMdA%2Fw203-h100-k-no-pi-0-ya66.854927-ro-0-fo100%2F!7i10000!8i5000